笑顔というもうひとつの顔を忘れてしまった私はもう笑えない
Lies and Truth : 01
「では今日から2年A組の方へ」
その言葉と共に渡された書類に一通り目を通しながら長ったらしい説明を右から左へと聞き流した。
この学校は共学だと言うのに校舎はとあるフェンスによって遮られているらしい。
今更ながら知ったこの事実に私はほっと胸を撫で下ろした。
他は特に問題となるものはなく、適当に校内図を頭の中に叩き込んでいた
―――――そんな最中。
目の前の先生が一枚プリントを差し出した。
疑問に思いつつも見てみると、そこには大きな見出しにそれについての説明が細々と書かれていた。
「・・・特別クラス、ってなんですか」
目に付いた1つの単語にまず違和感を覚えた。
武蔵森にそんな制度があっただろうか。
・・・自分が知らなかっただけで元々あったのかも知れないけれど。
武蔵森に昔通っていたという近所のお姉さんはそんな事一言も言ってなかった気がする。
「今年度から出来た新しいクラスだから・・・まあ、聞いたことがないのも無理はない」
腕を組みながらうんうんと頷く自分の担任らしき人に一言はあ、と返した。
自分だけ納得されてもこっちとしては反応に困るんですけど。
深い溜息を見せ付けるように吐くと、気付かない振りでもするように壁に掛けてある時計へと目を移した。
「とりあえずもうすぐ時間になるから教室に行こうか」
にっこりと微笑む彼は相当キレる奴だとその時確信した。
それと同時に敵に回してはいけないと言うことも。
正直読むのが面倒になったさっき配られた紙とその他の書類を鞄へと無造作に詰め込み、既にドアの付近まで歩き出していた担任を追い掛けた。
―――――その頃2年A組では。
例に漏れることなく転校生についての色々な話題が持ち上がっていた。
男だの女だのかっこいいだの可愛いだの流れてくる情報は様々。
仕舞にはその転校生の情報を仕入れようと職員室まで押し掛ける生徒も出て来るほど。
しかしながらそれも仕方のないことだった。
なんて言ったってあのAクラスに転校生なんて珍しいことこの上ない。
学年、寧ろ学校全体の注目の的となっていた。
そんなことは全くと言っていいほど知らない話題の当人は担任に連れられてその教室の前まで来ていた。
「じゃ、呼んだら入ってきてくれ」
そう言うと担任は笑い声で溢れている教室へと消えていった。
「センセ、転校生が来るって本当!?」
「男、女どっち!?」
「つうか本当にウチのクラスなん!?」
教室に入った途端担任に浴びせられた質問の多さに疑問が浮かんだ。
同時にこれほどまでに噂が広がっていたのかと感心に近いものが込み上げてきた。
高が転校生に学校中がこれほどまで湧くとは。
歓迎、と言うよりも興味津々と言った方が正しいような気もする。
「あー・・・今呼んでやるから静かに。、入ってこい」
視線が集まっているであろうその場に足を踏み入れる。好奇の目に晒されるのは慣れたものだ。
途端になくなった先程までの歓声に少しばかり眉を顰めつつ、壇上に上がる。
「自己紹介して」
黒板にカツカツと私の名前を書きながら自己紹介を促された。
普通教師が何か言ってくれるものではないのかな。
生憎転校という一種の行事が初めての私にとって担任の行動は全て理解不能だった。
とりあえず言われた通りにしようとクラスメイトと向き合う。
「諸事情によりこの学校に転校して来たです。宜しく」
本当は宜しくする気なんてサラサラないんじゃないかと思わせる程の無愛想さ。
これにはクラスの人たちも各々感じるものがあるようだった。
「一番後ろの空いてる席に座って。隣は―――――笠井、手挙げてくれ」
背の高い、猫目の男の子がおずおずと手を挙げるのが見えた。
あの人がカサイくんね―――――よし、覚えた。
すっかり静まり返った教室に不気味さを感じながら、机と机との間を通って後ろまで歩いて行った。
視線が痛い。
そんなに転校生が珍しいのだろうか。
主に女子からの視線であることに疑問を抱きつつも、気にも留めていないとでも言うように無視をした。
昨日の内に取ってきたのであろう机に鞄を置くと、カサイくんと目が合ってしまった。
「よろしく、さん」
その瞬間女子の黄色い悲鳴が教室内に響き渡った。
そして瞬時に理解。
あの女子からの痛い視線はコイツのせいか。
それを理解しての行動は達が悪いけど無意識なのはもっと達が悪い。
隣、ということもあり被害を被りそうだと思ってしまったのは―――――あながち間違いではないかも知れない。