自分が見た現実と真実は少しながらも違っているもの
Lies and Truth : 02
まるで自分がパンダと化したようだった。
SHRが終わってみると、廊下に凄い人だかりが出来ていた。
そこまでは良いとしよう。
そこまでは。
まだその人達が何をしに来たのか知らない内は良かった。
時折聞こえる言葉の中に転校生という単語が入っているのに気が付かなければ良かっただけのことなのに。
その視線が自分に向けられている、と言うのを知ってしまったばかりにその場に居づらい状況となってしまった。
そんな見せ物状態が休み時間になる度に続き正直鬱陶しかった。
やっとの事で終わった午前の授業に感謝しながら、鞄を片手に裏庭まで足を運んだ。
誰もいないだろうと踏んでいたそこには既に先客がいた。
「どういうつもりよ!」
「だんまり?何とか言ったらどうなの」
あまり宜しくなさそうな話の内容にとっさに身を隠した。
数人の女子が木の根元を囲んで罵声を浴びせている。
恐らくターゲットとなっている子が私の視界からは見えない所にいるのだろう。
転校早々こんな場面に出会すなんてついてない。
面倒なことに巻き込まれるのが嫌なので足早にその場を離れようと踵をめぐらしたが、相手は気が立っているようなので慎重に行動をしようと思い直した。
下手に動いて見つかるよりも、彼女達が去った後でもこの場を離れればいい。
その間にも彼女達は口汚く罵ることを辞めない。
「大体何でアンタなんかがサッカー部のマネージャーやってんのよ」
「藤代くんにも色目使っちゃってさあ」
「大して可愛いワケでもないのに、・・・ね!」
鈍い音と共に聞こえた短い悲鳴に何が起こったのかと隠れていた茂みから顔を覗かせた。
その好奇心がいけなかったのかも知れない。
体勢を崩した私は目の前の茂みに手を付いてしまった。
勿論茂みからはガサッという大きくはない、でも聞こえない程小さくもない音がした。
その音に気付いたのであろう1人が私に振り返る。
「・・・・・・誰?」
その一言を合図に全員の視線が私へと突き刺さった。
その視線には驚きや焦り、憎しみまでもが入っていて、ああやっぱり巻き込まれるんだなと彼女達を前にして冷静に考えている自分がいた。
「あんた名前は?」
「・・・」
偉そうに訊いてくるリーダー格の子の質問にぶっきらぼうに答えた。
名前を訊かれたんだからそれ以上は教える必要なんてない。
敵と見なした者には無駄な情報は与えるべからず。
そんな私の態度は無駄なこととして終わったのか、リーダー格の子はああ、と思い出したように声を上げた。
「あんたが噂の転校生?あのAクラスに入ったっていう」
どんな噂だ、と悪態をつきそうになったけど喉から出かかった所で止めた。
どうやら‘転校生’ではなく‘Aクラス’に何か特別な意味があるらしい。
目立ってたのはそのせいかと妙に納得してしまった。
「で、何があったのか説明してもらっても良い?」
私のその有無を言わせない質問にどうする?と彼女達は顔を見合わせた。
お互いアイコンタクトを交わし合い、数秒後私に向き直った。
馬鹿馬鹿しい、が脳内での第一声だった。
当然ながら声には出さなかったけど。
彼女達のこの行動の理由はあの罵声を聞いた時から安易に想像出来た。
『サッカー部のマネージャー』
『藤代くん』
サッカー部がどんなものか、藤代くんがどんな人なのか想像はつかなかったけどこれが理由だってことは誰が見ても明らか。
そして彼女達は思った通りの言葉を返してくれた。
誰もなれなかったサッカー部のマネージャーにこの子がなった。
そしてあろうことか藤代くんの彼女にまでなった、と。
「要するにあなた達はこの子に嫉妬してるんでしょ」
その一言に囲んでいた彼女達は微かながらも反応を示した。
自分が手に入れられなかったものをこの子が簡単に手にしたのが許せなかった。
その腹いせに彼女に当たることしか出来ない彼女達はきっと不器用なだけ。
本当はこんなこと無意味だって頭の何処かでは分かってる筈だ。
それでも止められなかったのは心から相手のことを好きだからなのかも知れない。
「別にあなた達を責めてる訳じゃない。ただ素直に相手と向き合って欲しいって思っただけ」
何も行動を起こさないで勇気を出した人に対して陰気な虐めをするのは間違ってる。
好きな相手から見返りを望むのであれば勇気を出さなきゃ。
その子と対等な立場に立った時、正々堂々と勝負をふっかければいい。
「・・・・・・行こ」
何処か腑に落ちないとでも言うような顔でバタバタと立ち去った。
その時初めてターゲットとなっていた彼女の顔を見た。
心底怯えてるようで肩を小刻みに震わせている。
掛ける言葉が見付からなくて突っ立ったまま見つめていると、誰かに襟を後ろから掴まれ、ぶん投げられた。
と言ってもよろける程度で済んだけど。
「お前・・・に何すんだよ!」
「ふ・・・藤代く・・・っ」
彼女が彼の名前を呼んでピンときた。
この人が元凶なのだ、と。
怒りを露わにしているあなたがこの状態を引き起こした当人なのに。
何故その矛先は私に向けられているの?
破られたブラウス、汚されたスカート。
突っ立って見下してる私、座り込んで縮こまっている彼女。
これが今の今までに起きた全てだとでも?
悪夢再来ノ予感
私の中の誰かが囁いた。