近頃世の中を騒がせる事件の数々
盗み、殺人、奇怪現象
理由は分からないながらも、犯人の目印は付いていた
怪盗天狼
性別不明の凄腕犯罪者
天満月
-1-
「性別不明って・・・スカートはいてるつもりなんだけどなぁー」
今日の新聞の一面を見ながら呟く少女が1人。
机の上に新聞を広げながら、熱心にその記事を読んでいる。
「っていうか怪盗に凄腕なんて形容詞付けて良いの?」
「?何ぶつぶつ言うとんのや」
「新聞の表記に間違えを見つけまして」
そう言うとはシゲに折りたたんだ新聞を押し付けた。
シゲはそれを受け取ると、怪盗天狼の記事を読み始めた。
「・・・そのまんまやんか」
「私そんな極悪人じゃないもん」
「でも世間からはそう見られてるっちゅう事やろ?」
シゲに図星を突かれてうっ・・・と言葉に詰まる。
本当は良いことしてるのに。
ってか殺人は私のせいじゃありませんて。
私は普通に盗みをしてるだけですから!
「にしても一面にどかんと怪盗天狼の記事とは随分派手にやったんとちゃう?」
「・・・いつも通りした筈なんだけど」
昨日は都内の豪邸に住んでやがる大富豪の絵をちょいと拝借しただけなんですが。
ちょっとサツを眠らせたりとかはしたけどさ。
別に舞台装置並みの演出でその場に出た訳じゃないし。
「ま、捕まらへんように頑張りや?」
「言われなくとも」
もうすぐ鳴るであろう本鈴の為に席に着くと、斜め前にいる誰かと目が合った。
・・・多分自意識過剰なんかじゃない。
にっこりと偽笑いを返してみると、相手は慌てて黒板の方へと顔を背けた。
そしていつも通りの授業に入る。板書ばかりのツマラナイ授業に、眠気を誘う先公の説明。
こういう時って窓側の人に同情する。
この暖かい日差しを浴びながら子守歌でも詠われたら誰だって夢の世界へと誘われる筈。
その分廊下側の私はどんより暗くて寝そうになるんだけどね。
大きな欠伸を隠さずに思いっ切りしたら、先生の目に付いた。
・・・今日は厄日だ。
「さん、随分と眠そうね。眠気覚ましにこの問題でも解いてもらおっかな」
明らかに発展ですオーラが黒板から漂ってきますが?
そのままにしておく訳にはいかないので、黒板の方へと歩いていく。
有無を言わせずにチョークを握らされ、溜め息半分で問題の目の前に立つ。
―――――ちゃっちゃとやって席にでも戻りますか。
チョークが黒板に当たってカツカツと音がする。
その間、誰も言葉を紡がない。
先生もどこかに間違いがないかチェックするのに夢中みたいで、その音だけが教室に響いた。
書き終えて先生ににっこりと笑顔を向けると、降参とでも言うように両手を顔の横まで上げてやれやれと言ったように溜め息を吐く。
「・・・正解よ」
その一言を合図に自分の席へと戻る。
これでも予習復習はちゃんとやってるんだからね!
そんな事を心の中で叫びながら、深い眠りへとついた。
そんなこんなでもう放課後。
晴れ晴れとした天気とは反対に心に現るは黒い雨雲。
今日も帰ったら仕事、仕事、仕事。
働き盛りなんだからを理由にこき使われるこっちの身にもなって下さい。
私の日常。
それは学校、部活、仕事の3つで出来ている。
特に変哲もないこの3つだけど、仕事が怪盗とかいうふざけたものだけに1日はハードなもの。
こっちは部活で疲れきってるのに容赦なし。
多分所長は綺麗な顔して鬼なんだ。
「ー!今日も頑張ってよ?」
「勿論!」
クラスの友達から温かい声援を受けてちょっと気分が良くなった私は、部室へと早足に向かった。
今日も走れる。
今日も跳べる。
そう思うと足が軽くなるのは部活病なのかな?
Tシャツに短パンというラフスタイルで校庭に出ると、みんなはもう準備運動を始めていた。
「遅いよっ。体ほぐした後罰走5周ね」
「うげっ・・・はいはい」
「『はい』は一回でいいの」
「部長の小姑ー」
こんな感じで毎日楽しくやってます。
1年の私は先輩達にとってはまだまだ子供なんだろうけど、冗談を言ったりしてじゃれ合ってる。
上下関係がないこの陸上部はフレンドリーこの上ない。
軽い準備運動が終わってみんながばらばらに散らばった時、部長の言いつけ通りトラックを走り始めた。
ただ走ってるんじゃつまらないから強弱をつけて。
最初はホップするようにゆっくりと。
そして段々と速度をつけていって思いっ切り走ったり。
たったこれだけの事なのに走ってるだけで顔が綻ぶ。
楽しい―――――そう純粋に思える。
「・・・やっぱのフォームは綺麗ね」
「形が綺麗だからこそあのタイムが出るんでしょうね」
そんな呟きを残しながら、元いるべき場所へと移動していく部長達。
当のは用具入れから棒などを持ってきて、高跳びの為の準備に取り掛かった。
「どうした?かじゅま」
「アイツって・・・だよな?」
校舎を出た所で立ち止まった一馬。
視線の先には同じクラスの女子がいる。
そんな一馬を見逃さず、すかさず結人がおちょくり始める。
「がどうしたのかな、一馬くん?」
「アイツ・・・飛んでるみたいじゃね?」
自分の力で飛び上がり、バーを飛び越える姿はまるで蝶のようだった。
軽々と、本当に飛んでいるみたいな。
重量感など全く感じず、ふわりと舞うように着地する。
思わず3人で見惚れていると、さんがこちらを向いた。
別にやましい事をしていた訳でもないのに、思わず視線を逸らす。
「結人、一馬。行くよ」
「えー・・・もうちょっと見てようぜ」
「今日は5時までに本部まで行かなきゃいけないから無理」
そう言って校庭を後にすると、すぐに2人が走って追い付いてきた。
まださんの話題を引きずっている結人に小さく溜め息を吐きながら、何もしてない筈の俺達が本部に呼ばれた理由を考えてみる。
最近の事件でこれと言った奇怪なものはない。
幼児虐待に通り魔事件。
放火事件に数々と起こる高価なものの盗み。
特に変わり映えのない事件は警察庁や警視庁がどうにかする。
気になるものと言ったらこの頃頻繁に出没している例の怪盗くらいだろうか。
でも警察は特にその怪盗を敵視している訳ではなかった。
なら何故。
このまま悩んでいても、どうせ解決策は練り出せない。
なら本部で直接問いただした方が早いのではないか。
そう考えをまとめ、足早に学校の門をくぐった。