夏真っ盛りのとてつもなく暑い1日
その蒸し暑さに耐えることが出来ず
地球温暖化なんかに構うことなく
冷房を23℃に設定した部屋に
彼氏ほっぽって1人極楽気分で涼む










  Summer Days     -Kazuma Sanada-









「この炎天下の中よく野郎共はサッカーなんて出来るねぇ・・・」


クーラーの風に当たる所にどっかりと座りながら、もう異世界へと化した窓の外を盗み見る。
耳には絶え間なく蝉の鳴き声が聴こえてくる。
それが更に夏を暑くさせているようで、鬱陶しくて仕方がない。


「熱中症になったって知らないからね」


そんな一言を呟いてみるも、自分はこの極楽楽園にいるのだから、彼がどうしているかなんて知る由もない。
でも心配している事に変わりはなくて。
この前もぶっ倒れた彼の姿を思い浮かべた。


「・・・しょうがないなぁ」


重い腰を上げ、暑くないようにキャミとスカートに着替えた。
バッグには自作のスポーツドリンクと、予め作っておいた差し入れを入れる。
そして定期をひっつかむと、一目散に駅へと走って行った。










「かーじゅま。どした?」
「べっ・・・別にどうもしてねぇよ!」
「嘘。今日調子悪いでしょ」


所変わって飛葉中。
東京選抜はいつものごとく、キツいメニューをこなしていた。
その中で倒れる者も少なくなく、監督からこまめに水分を取るようにと注意を受けたばかりだった。
みんなが水分補給を懸命に行ってる中、一馬だけがフィールドの外に座り込んでいた。


「かじゅまスポドリ飲まねぇの?」
「・・・まさかドリンク忘れたとか?」
「ちげぇよ!」


結人が飲み物片手に一馬の元に寄って来る。
それに英士もついてきて、いつもの3人組が集まった。
でも一馬の異変は治ることなく、ドリンクに手を付けようともしない。


「じゃあ何で飲まないのさ?」
「・・・飲みたくないだけ」
「嘘吐くなっての」
「ちゃんと言いなよね」


そんな簡単な嘘が長年の親友にバレない訳がなく、うっ・・・と言葉に詰まる。


「まさか熱中症?」
「かじゅま吐き気とかすんのか?」
「・・・少し」


心配してくれている親友2人に嘘をつき通すことも出来ず、白状する。


自分が情けなかった。
いつもより少し暑いだけなのに、練習中にダウンするなんて。
確かユースの時にも何かしらの理由で倒れた気がする。
英士が監督に許可を貰ってきてくれたみたいで、俺はフィールドから少し離れた木陰で休ませてもらうことにした。


「ちゃんと休んでなよね」
「俺の勇姿を見とけよー?」


そんな事を言ってアイツらは練習に戻って行った。
暫く経って暇を弄び始めた頃、監督がフォーメンションの確認を始めた。
一緒に参加したかったけど、まだ吐き気がしたので断念。
2人のことを目で追っていた―――――その時。


「やっぱり。かじゅま倒れたの?」


聞き慣れた声が不意に聴こえた。
まさかと思って勢い良く振り向くと、予想していた人物が右手を腰に当てて真横に突っ立っていた。


「え・・・?なんで・・・」
「またかじゅまが熱中症で倒れてるんじゃないかと思って来てみたら案の定。ちゃんと水分取ってるの?」
「えっ・・・いや、その」
「・・・取ってないのね」


はぁーっと深い溜め息を吐いた後、俺の横に腰を下ろす。
久しぶりに会えた筈なのに、体調が優れないせいかあまり感動しない。
ぼーっとの方を見ていると、イキナリ水筒を突き出された。


「少しでも良いから飲みな?ちょっと飲むだけでも違ってくるし」
「あ・・・サンキュ」


差し出されたそれを受け取って、少しだけ口の中に流し込んでみる。
相変わらず特製ドリンクは美味いんだけど、今日はどこか違う。
どこがって、味が。
もしかしてこれって・・・。


「特製りんごスポドリはお口に合いませんでしたか?」


ニヤリと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
それはもう確信犯の笑みで、言わなくても分かってる筈なのにとぼやいてみる。
でも結局には勝てない。


「・・・ウマい」
「それはそれは良かったv」


あははと笑いながらまた鞄の中を探る。
一体の鞄の中には何が入っているのだろうと疑問に思ったけど、
ぺったんこの鞄からそんな沢山の物は出て来ないだろうと思い直した。
また目の前に差し出されたのは小さなタッパー。


「差し入れ」
「・・・開けてもいい?」
「勿論」


開けてみると、美味しそうなレモン漬けならぬりんご漬け。
流石は、料理上手いよなーなんて考えていると、フォークを渡された。
…やっぱりの鞄の中身、知りたいかも。


「りんごだからサッパリするかどうかは分からないけどさ。一応作ってみた」


だから今日はりんご尽くしね!と笑顔を向けてくれるに心から感謝した。
―――――この暑い中俺の為にドリンクと差し入れを持ってきてくれた。
しかも、アレンジを加えた手作りの物を。
なら俺はどうやってにこのお礼をしたらいい?

時計を見て、そろそろ帰ろっかな?なんて呟いているに声を掛ける。


「ちょっと・・・練習見ていかね?」


言った直後、ここまでしてもらったのにその上ねだるなんてと考え直し、慌てふためきながらも別に無理なら良いから、と付け足した。
でもはいつもの笑顔で笑って


「良いよ」


と言ってくれた。

その後すぐに練習に戻った。
監督にはまだ休んでおいた方が良いんじゃない?って訊かれたけど、
のお陰ですっかりもうピンピンだった俺は構わずにフィールドに立った。
が見ててくれるって分かってるから、いつも以上に力が出せた気がする。
3点目のゴールを入れた時、英士と結人にもみくちゃにされた。


「かじゅま絶好調じゃん!」
「休んでる時に何かあったの?」


さっきまで休んでた木陰に目を向けると、が手を振ってるのが見えた。


「別にっ・・・何もねぇよ!」


照れ隠しに怒鳴って、さっさと場所に戻れと催促する。
多分…は俺の原動力。
なしでの俺は俺じゃない。

そんな事を頭では考えながら、今日4度目になるシュートをゴールへと入れた。