ねぇ、勝負しない?
―――――は?勝負??
うん。私が勝ったら1つ言うこと訊いて
―――――俺が勝ったら?
私が1日あなたの言うこと訊くから










  Routine Game     -Tsubasa Shina-









授業も終わり、生徒達が部活から塾やらで賑わう時間帯。
ギャラリーが出来ているにも関わらず、白黒のボールの取り合いをしている2人がいた。
それは熱心そのもので、周りにギャラリーが出来ている事にさえ気付いていない。


「あああー・・・!」
「また僕の勝ちだね」


赤茶色の髪の毛が目立つ、可愛い少年が息を弾ませながら少女に言う。
どちらが先にボールをゴールに入れるかのぶっつけ本番勝負。
もう毎日の恒例行事とも化しているこの勝負を見に来る生徒達も少なくない。
決着が着くと、やっぱり無理だったか、などと呟いて散らばって行く。
勝負をしていた少女はむー・・・と唸りながら、勢い良く顔を上げた。


「翼っ!もう一勝負!!」
「ダメ。もう部活始まるから」
「・・・チッ・・・ケチ」


荒い息を戻しながら、グラウンドにへたり込む。
額からは絶え間なく大粒の汗が流れ出していて、今まで激しく動いていた事が伺える。


「23連敗もしてるんだからいい加減諦めたら?」
「嫌ー」
「まぁ、別に良いけどね。今日もマネージャー業よろしく」


腹黒い笑みを残して某美人監督の元へ走っていく翼。
かれこれ23連敗もしている身としては、この状況は面白くない。
負けたら汗臭いユニフォームやタオル、ドリンクまでも作らなくてはならないのだ。
でももし勝てたら1つ言うことを訊いてもらえる。
そう思うと、勝負を挑まないではいられない。


「まずはドリンクだ・・・」


ふらふらとグラウンドを後にして材料を取りに部室へと向かう。
もう毎日の日課となりつつあるこの行動に悲しみを覚えたのは言うまでもない。










「翼ー・・・いざ勝負!!」
「・・・懲りない奴」


サッカーボールを出した直後、建物から走り出してきた
いい加減諦めれば良いのにと思いつつも、いつの間にか待っている自分がいた。


「今日こそ抜いてやるから」
「へぇ・・・それは楽しみ。精々口先だけにならないように努力するんだね」
「・・・望むところよ!」


あ、の叫び声に釣られてギャラリーがまた集まってきた。
そりゃもう日課みたいになってるし仕方がないのかも知れないけど。
メンツがいつもより増えている気がする。


「柾輝、スローインお願い」
「ああ」


グラウンドの真ん中に突っ立って柾輝が投げ入れるのを待つ。
その間もまたギャラリーが増えて、
今日こそは勝てよー」とか「椎名くん頑張ってー」とか言う声が耳に入ってくる。
人が真剣にしようってのに、集中力欠かすような事は応援とは言わないと思うんだけど。

柾輝がスローインすると、まずはボールをキープする。
そこでが前にはばかるのは目に見えてるから、背を向けて隙が出るのを待つ。
ボールをこねていると、の目が一瞬ボールに行った。
それを見逃さずに、早い切り返しでゴールへと近付いていく。
そのままあっさりゴール。
大口叩いてた割にはいつもより呆気なかった。
の方を見ると、右足首に手を当て、センターライン近くに座っていた。


・・・どうかした?」
「・・・足、捻ったっぽい」


だから立てないんだよね、と力無く笑う。
なんかとても申し訳なく思えて、無意識の内にに手を伸ばした。


「保健室行こう。肩貸すから」


は驚いたような顔をしたけど、すぐに状況を理解したのか手に掴まった。
ゆっくりとふらつきながら立ち上がり、俺の肩に少し体重を掛ける。


「・・・今日の勝負、引き分けで良いから」


そう言うとは意外そうに俺の顔を覗き込んだ。


「あの翼がこんなこと言うなんて・・・」


今更ながら俺はこいつにどう思われているのか不安に思った。
もしかしてこいつは俺の事とんでもない奴とでも思ってるんじゃないのか・・・?

保健室に着いた時には、先生が廊下まで出て来てくれてを中へと連れて行った。
部長の俺が部活に遅れる訳には行かないので、さっきまでいたグラウンドへと直行。
まだ始まってなかったみたいで、部室の前にいた柾輝が俺に話し掛けてきた。


「大丈夫だったか?」
「ただの捻挫だし大丈夫なんじゃない?」
「は・・・曖昧だな」


グラウンドに目を向けると玲がこちらに向かって手招きをしていた。
時間からしてもう部活が始まる頃だからだろうけど。
柾輝に行く?と合図すると、行かなきゃ殺されるとの答え。
まぁ・・・確かにな。


「随分と気に入ってるようじゃねぇか、の事」
「まぁね。―――――諦めの悪い奴は嫌いじゃないし」


小走りで監督の元へと向かいながらも会話は途切れない。


「まだ続きそうだな―――――あの勝負は」


そう呟いた柾輝の言葉に笑みを深くした翼がいたとかいないとか。