郭英士、真田一馬そして極めつけにサッカー
私には無関係のこの3つが私からあなたを遠ざけていった
ずっと近くに -Yuto Wakana-
「結人どこ行くの?」
「ユース!今日試合あんだ!じゃな」
・・・そんな満面の笑みで答えないで下さい。
自分が虚しくなるから。
結人がサッカーにのめり込んでからもう10年近く経った。
初めてサッカーに触れたのは4歳の頃。
泥だらけになって帰って来たのを今でも覚えてる。
でも服とかは汚くても、結人の笑顔は汚れを知らないかのように明るかった。
その日結人の家に遊びに行ったら、イキナリ
「おれ、サッカーせんしゅになるから」
って言われたっけ。
家が隣だったからいつでも見てた。
同じ幼稚園行って、同じ小学校行って。
ずっと同じ道を歩んでいくものだと思ってた。
ううん、確信してた。
結人は私から離れていかないって、そう信じてた。
少なくとも、小学校高学年になって結人がユースに入るまでは。
振り返らずに走っていく結人を見えなくなるまで見つめてから、明日までのレポートへと手を伸ばした。
私は私の道を歩まなければいけない。
そう思い始めてから沢山の苦しみを乗り越えたと思う。
将来の事を考えて親の敷いたレールを文句も言わず歩いてきたし、人付き合いもちゃんとしてきたつもり。
でも正直な話、それは自分を捨てただけと同じ事。
それでも私に笑いかけてくれる人がいるから、良いと思ってた。
日もとっぷり暮れて電気なしではなにも見えなくなった頃、玄関の呼び鈴が鳴った。
どうせ母親が出るだろうと踏んでいたのに、いつまで経ってもあの煩い話し声が聴こえない。
シャーペンを放り投げてドアまで降りていくと、結人のお母さんがエプロン姿のまま立っていた。
「えと、こんばんは」
何を言ったら良いものかと頭を悩ますも、外を見るともう真っ暗。
気付かなかったなんて恐るべし勉強・・・!
「こんばんは。今日ちゃんのお母さん達が遅くなるって言ってたから、一緒に夕飯でもどうかと思って」
「そんなご迷惑は・・・」
「迷惑なんかじゃないわよー?大勢の方が楽しいじゃない」
それに他の子達も来てるの、と続ける結人ママに甘えて頂く事にした。
他の子って・・・多分あの人達だろうけど。
自炊するのは面倒だからね。
「ちゃん連れてきたわよー」
「おっ、来たか!」
隣の結人家に着いたら、結人が顔を出して出迎えてくれた。
やけにハイテンションじゃん。
靴を脱いで側まで寄ると、囲碁をしてるようだった。
・・・囲碁?
「結人囲碁なんて出来たっけ?」
「もっちろん!」
「俺に4連敗したのは何処の誰だったっけ?」
「あ・・・あはは」
自信満々に肯定した結人に郭くんが即座につっこむ。
なかなか良いコンビじゃないですか。
隣で真田くんが顔を赤くして俯いている理由はあえて訊かないでおこう、うん。
「だから頼むな!!」
「・・・・・・何を」
2人の会話を聴いてなかった私は頭に?が浮かぶばかり。
ってかまだ2人に挨拶してないよ。
「俺は英士に4連敗したからもう後がない訳よ。で、このままじゃ俺が罰ゲームする羽目になるから、急遽ピンチヒッターのに頼もうと」
「・・・なんで私?」
「囲碁出来んじゃん」
「まぁ、良いけどさー」
ぶつぶつ言いながらも結人が持っていた碁石を数個握る。
ずっと勉強とかしてたから碁石なんて触るの久しぶり。
腕落ちてるだろうなーと思いつつも、目の前の人に負ける気はしない。
カラカラという音と共に数個の碁石が碁盤に置かれると、郭くんが2つ碁石を出してきた。
「7・・・って事は郭くんが先行ね。・・・よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そんな感じで始まった囲碁は、ご飯が出来上がる直前まで続いた。
私も郭くんも真剣そのもので、周りの音や声が聴こえなくなったほど。
郭くんは本当に強くて、結人が4連敗するのもおかしくないくらいだった。
「すげー試合」
「どっちが勝ってんだ・・・?」
目の前で繰り広げられる目まぐるしいゲーム展開について行けない2人。
が打った碁石を見て、溜め息を吐く英士から一言。
「・・・負けました」
その言葉が信じられなくて、碁盤をどうにか理解しようと覗き込む。
自分が4連敗もした相手に勝ってしまうとは。
やっぱりは凄い人なんだと再認識した。
「ここを守っちゃったのがいけなかったかな?そこは勝負に出るべきだったかも」
「でもここに置くとまたここに隙が出来るから」
「じゃあそこを捨てて右端を狙うってのも手じゃない?」
色々と相手の悪い所、自分の直すべき所について言い争う2人。
ついて行けない他の俺達は仕方なくそのまま。
しばらく続いた討論が終わると、と英士は何故か仲良くなっていた。
それが何か面白くなくて、一馬に八つ当たりとかしてみた。
英士にじゃなかったのは勿論後の仕返しが怖かったから。
そのまま俺と英士と一馬とは飯を食った後、ゲームなどをして遊んだ。
とは久しぶりに遊んで、ちょっと嬉しかったのは確か。
だから帰り際に「今度どっかに遊びに行こう」と思い切って誘ったら、信じられない事に肯定の返事が返ってきた。
が帰った後の2人のニヤニヤした顔はとりあえず無視しておく。
一々反応してたらこれからぜってー身が持たねえし。
今日は4人だったけど、次は2人で遊びたいと思う。
は俺にとって姉貴であり、妹であり、親友である存在だから。
ずっと近くにいたからこそ、分からなかった気持ち
気付いた時には遅かった、なんてことにならないよう 今この思いを伝えたい
ずっと近くに ------ 2006.03.12 up