仲間がいる
それだけで学校生活が数倍楽しくなる
私の場合、その仲間が彼だっただけで
「怖い」と他の人達に言われても
私にとってかけがえのない人だから―――――手放したくない










  Above The sky     -Shigeki Sato-









誰も近寄らない、周りとは違う空気を醸し出している学校の一角。
そこには古びたロープが右から左に掛けてある。
そんな無意味と化したロープを跨ぎ、その先へと続く階段へと足を伸ばした。

軽快なステップで、パタパタと音をたてながら上がって行く。
踊り場を340度曲がって、まだまだ続いていく薄暗い階段を駆け足で登りきる。
そこには眩しい程の光が私に降り注いで、まるでその場に来た事に対して歓迎してくれているかのように感じられた。
そして息つく隙もなく、また近くの梯子をよじ登って行く。


「シーゲっ」


返事がない。
多分まだ寝てるんだろうけど、起こすのが私の役目。


「夕子ちゃんの授業に遅れるよー」


揺さぶってみても、びくともしない。
まぁそれだけ疲れてるんだろうけど。
この頃サッカー部は夏の大会に向けて猛練習している。
今までの空白を埋めるかのように、必死に。
それは例外なくシゲも一緒な訳で、彼が集団行動してる事に最初はとても驚いた。

一匹狼だった彼が。
何に対しても無関心だった彼が。
上辺だけの笑顔で人と接していた彼が。

今では本気でサッカーに打ち込んで、負けず嫌いな性格を少しずつ露わにしている。
それが何となく、私には不思議に思えた。


「シゲー・・・いい加減起きようよー」


溜め息混じりでそう呟くと、聞き取ったのか否かシゲはもぞもぞと上半身を起こした。
反動で髪がするりと肩を通り過ぎる。
それが真上まで登っていた太陽に照らされて、何とも言えない美しさを作り出していた。


「んあ・・・やんか。どないしたん?こないな処で」
「・・・シゲを起こしに来たに決まってんじゃん」


まだ寝ぼけているシゲの頬をペチ、と叩くと顔を少し歪めた。


「夕子ちゃんの授業の前に起こせって言ったの、シゲでしょ」


今日2回目の溜め息と共に理由を述べるとあぁ、と理解したように手を叩いた。
その姿がやけに幼くて自然と笑みが漏れる。


「せやったなぁ・・・。ってもうそんな時間か」
「シゲ。それおっさんくさい」
「しゃあないやん」


肩をすぼめてどこか困ったように言う。
・・・さっきの言葉、訂正。
シゲは全然おっさんくさくなんかない。
大人っぽいんだ。
物事を冷静に見て対処したり、無駄な事に首を突っ込まない辺りが。


「ほな教室にでも戻ろか」


立ち上がって伸びをするシゲ。
また、おっきくなってる。
初めて会った時は私の方が大きかったのに、すぐに追い越された。
流石育ち盛り。


―――――そんなこんなでもう本鈴が鳴ってもおかしくない時間。
まだ時間があると油断してた自分に非があるんだけれど。



キーンコーンカーンコーン



「あ、本鈴・・・」
「しもた!姐さんに怒られてまう!!」
「・・・結局遅刻になる訳ね」


シゲを起こしに来ると必ずと言って良い程遅刻する。
まぁ、先生は遅刻した理由を知っているから黙認してくれているのだけれど。
それでも出来るだけ遅刻は免れたい訳で。


「シゲっ、早く教室戻ろ?」


下に降りようと立ち上がった瞬間、シゲに腕を掴まれた。
重力的にも力的にも下へと落ちる力が強かったので、必然的に下へと落下。
シゲに受け止められた。


「シゲ?・・・どうしたの」
「今日くらいはサボってもええやん?どうせ戻っても怒られるんやし」
「あんたはいつもサボってるでしょうが」


はー・・・と溜め息を吐いてみせると、せやかって!と反論してくる。
確かにシゲは一年留年してるから仕方がないかも知れないけど、義務教育なんだから。


「今日くらいは・・・な?」


手をパンッと良い音を立たせながら合わせて、私を見上げてくる。
うっ・・・私の弱いシゲの上目遣い・・・。
ハッキリ言って心臓に悪い。


「きょ、今日だけだからねっ」
「おおきにv」


居たたまれなくなって承諾すると、ギュウッと抱きつかれた。
元々シゲの手の中にいたけど、抱きしめられるとやっぱり恥ずかしくなるもので。


「シゲ離して?」
「いややv」


訊いてくれない事は重々承知ですとも。
無謀な事訊いたって事くらい自分でも分かってるけど。
それでも恥ずかしいのは変わらない訳ですよ。
少しばかり抵抗すると、バランスを崩して倒れそうになった。
でもシゲはバランスを取ろうともせず、そのままゴロンと寝転がると離してくれた。


「今日は空が綺麗やなぁ」
「だね」


そのまま授業終了のベルが鳴るまでずっと空を見上げていた。
隣を見ると、シゲが私にどや?って言いたそうな笑顔を見せた。
その意味を汲み取った私はシゲに満面の笑みを返す。

今日だけは。
今日くらいは授業をサボって空を見るのも悪くないと思った。