10月10日月曜日の祝日
今日は私にとって特別な日となる










  Surprise!









都内某所に住んでいる私は朝起きて早速準備に掛かった。
肌は勿論、髪の毛にも念入りに手入れ。
お気に入りのワンピースを着て、可愛いバックに必要な物をどんどん詰め込んでいく。
その際綺麗に包装したプレゼントを忘れずにつっこむと、もう用意は万端。
朝御飯に手も付けずに駅へと一目散に走って行った。

ずっと前から待ち望んでいた―――――待ちわびた10月10日が来たのだ。
その事実が更に私の心を踊らせた。



「ホームに電車が参ります。黄色い線まで下がってお待ち下さい」



電車に揺られて30分。
品川駅に着くと真っ先に新幹線の方へと足を向けた。

流石に3時間も揺られていては時間の無駄以外の何でもない。
金銭的にはキツいけど、やっぱり早く逢いたいという気持ちがそれに勝る訳で。
運賃の安い電車を断念して新幹線で行くことに決めた。


と言っても本分が学生の為、お金なんてそんなに持っていない。
仕方なく各駅の一番安いチケットを買って早速乗り込んだ。





移り変わっていく窓越しの景色を眺めまだかと待っていると、不意に眠気が襲ってきた。
昨日は興奮しすぎて眠れなかったから尚更。
母親に幼稚園児じゃないんだからと笑われたけど、私にとっては当時の遠足よりも楽しみにしていたある意味行事の一つ。
滅多に会えないんだもん。
興奮するのも無理ないって。

各駅という安心感からかそのまま朦朧とする意識を手放した。





―――――おか・・・・・・静岡ー・・・



「う・・・ん?ってはぁあ!!」



ヤバい寝過ごすところだった!!
持ってきた少ない荷物を即座に掴むと、出口までダッシュで向かった。
6号車に乗っていたお客様方ごめんなさい。
大声を張り上げた挙げ句車内を走るとは幼稚園児以下の存在でございます。

そんな事を新幹線を出たところで考えていると、車両さんに肩を叩かれ笑顔で退けと言われた。
ああ悪循環・・・。


気を新たに静岡駅内をぐるりと回っている私。
人は時としてこれを迷ったと言うのだけれど。



「あー・・・此処さっきも来た・・・」



見事なまでに静岡駅を一周してしまった。
私はただ出口に出たいだけなのに何この仕打ち。
悪いことは…してないとは言い難いけどそんな大した事してないし。

仕方がないのでインフォメーションデスクまで行くと、目の前の改札を指さされた。
・・・目頭に水分が。


外に出てそのままタクシーのある場所へと直行。
だってこのままじゃ静岡で遭難紛いなコトしそうだし。
明日から学校だからそれは流石に勘弁して欲しい。



「どこまで?」
「この住所までお願いします」



さっきまで握り締めていた紙を差し出すと、年配の運転手は眼鏡に手を掛けてまじまじと見つめた。



「ここなら歩いてでも行けるよ。大体徒歩5、6分てとこかな」



・・・どの方向にどう行ったら5、6分なんですか?
それ以前にその方向を辿れるかどうかさえも怪しいのに独りでこれ以上歩かせないで下さい。
そう訴えるように運転手を見つめるとエンジンを掛けてお決まりの料金ボタンを押した。


今日も圭介の大好きなサッカーの練習があるのはもう調べてある。
それがお昼までってコトも。
圭介のことだから真っ先に家に帰って来るのは見えてるし。
その圭介を捕まえて遊びに行こうって魂胆なんだけど。
実はまだ圭介にこの事話してないんだよね…。
用事とかあったらどうしよう。

―――――そんな事を考えている間にも山口家到着。
2分掛かったかどうかのそれさえも疑いたくなるくらい近い。
でも・・・多分1人では行けなかった。



「有難う御座いました」



最低限のお金を置いてタクシーから出ると、大きな一軒家が視界に入った。
これが、圭介の家。
とてつもなくデカいそれは首が痛くなる程の大きさだった。



「・・・・・・金持ち」



唇から漏れたのは口に出さずにはいられなかった単語。
まさか身近な人でこんなにも凄い金持ちがいるとは。
つくづく圭介は凄い人なのだと思い直した。










玄関先で本を片手に待つこと30分。
目の前を黒い車が通り、門の中へと入って行った。
もしや圭介ではないかと出て来る人を盗み見てみると、見知った後ろ姿。

あれは―――――



「あら、ちゃん?こんなところでどうしたの??」



―――――圭介のマザー。



「おっ・・・お久しぶりですっ」
「ごめんなさいね。圭介まだサッカーの練習から帰ってなくて」



って言っても私も今帰ったばかりだけどと優しく笑う。
良い人なんだけど、出来れば見つかりたくはなかった。
それはあっちが私のことを知っているからでもあるし、何しろ何故私がこんな所にいるのか訊かれたくなかったから。



「家に上がっていかない?美味しそうな紅茶を貰って来たばかりなのよ」



持っていた小さめの赤い紙袋を持ち上げると、微かに葉の香りがした。
そういえば朝から何も口にしていない。
断ろうと身構えていた自分を抑え、苦笑気味に笑う。



「・・・お言葉に甘えて」



やっぱりと言うか何と言うか。
圭介の家は外装通り中まで大きくて綺麗だった。
リビングまで通されると、適当に座ってと促される。
フカフカで座り心地の良さそうなソファーに腰掛けて、出された温かい紅茶を啜った。



「・・・美味しい」
「でしょう?イギリスに行ってた人から貰ったお土産なのよ」



そう言って優雅に笑う圭介のお母さんに見惚れた私。
ヤバ、人妻だって!

それから色々な話で花を咲かせていた。
何気に圭介のお母さんと趣味が合うみたいで、年の差なんて関係なく笑い合ってた。



「ただいまー」
「お帰りなさい。遅かったわね」



扉を開くガチャ、という音と共に聴こえたのは聞き慣れた声。
勿論この家の住人、圭介の声である。

バタバタと廊下を走ってリビングとの仕切り扉を開けると、圭介の動きが止まった。
あはは、サプライズバースデー成功?
最初描いてた計画には程遠いけどこの際驚かせられたから関係ないってことで。



「・・・・・・何でいんの?」
「・・・さあ?」



流石に家にいたのはマズかったかな?なんて。
でもサプライズは当初の計画より倍になったよね!?

話の流れと圭介のお母さんの提案によりお昼を食べさせて頂くことになった押し付けがましい私。
でもその昼飯が。



「・・・俺が作んの?」
ちゃんが来てるのよ?あなたがもてなすのは当たり前でしょう」



圭介が作るらしいんです。
家事をしたことがあるのかも怪しいサッカー馬鹿にそんなこと頼んでも大丈夫なのでしょうか。
食えたらなんの文句もないけど。

ブツブツ言いながらもエプロン姿でキッチンに立つ圭介。
どうなるものかと見守っていると、圭介のお母さんに大丈夫だからと微笑まれた。





そして数分後。
「出来たぞー」とかいうやる気が微塵も感じられない圭介の元へ半ば走るように近付くと、自分が悉く間違っていたことに気が付いた。



「何これ」
「何って・・・昼飯」



や、そんなことは重々承知で御座いますよ。
何、このピカピカと今にも光りそうで美味しそうなこの飯は!!



「あらー・・・今日はいつもに増して美味しそうね」



“いつも”に増して?いつも圭介が作ってるってことですか??



「まあ、冷めない内に食べろよ」
「あ、うん。イタダキマス」



片言になってしまったのはまだ信じられないからだということにしておこう。
まずは目の前に置いてあったチャーハンをスプーンで掬って口に運ぶ。
ヤバい…ウチの母親のよりおいしいかも。

そんなこんなで綺麗なまでに完食。



「どう?美味しかったでしょ?」
「あ、ハイ。スッゴい意外でしたけど」



隣で圭介の抗議の声が聴こえたけどわざと無視した。
だって本当に意外だったんだもん。
サッカーにしか興味がなさそうな圭介がこんな美味しいご飯作るなんて。



ちゃんは家事全般は得意?」
「恥ずかしながら全く・・・」



圭介に劣ってると思うと女として悲しくなってくる。
って言うか圭介が多才なだけだよね?
きっと世の中家事とか出来ない人が何人もいるよね??



「そんなの気にしなくて大丈夫よ」



にっこりと笑みを深くした圭介のお母さん。
何か考えがあるのかな?なんて暢気に構えてた私が甘かった。
次の発言には驚きましたとも。
ってか寧ろ驚かない人達がいたら私は尊敬するよ。



「2人が結婚しちゃえばオールオッケーじゃないv」



暫し静寂に陥ったその場は数秒後私と圭介の叫び声が響き渡ることになる。